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欲しいものは
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部活終了後、皆は帰宅の途に着いた為現在部室に居るのは私と用があると残った後輩の日吉の2人。
普段は私も皆と一緒に帰宅するのだけれど、何やら用事があるという跡部に今日の分の部誌を頼まれたのだ。
中学の部室にはおよそ不釣合いな座り心地の良いソファに腰掛け、シャーペン片手に部誌のページをぺらぺらと捲った。
記入済みの日付は12月4日が最後であることから白紙の12月5日が今日のところだろう。
白紙のページに今日のメニュー内容やら反省点やらをせっせと書き込んだ。
それにしても12月5日って何かあったような・・・・。
シャーペンのノック部分を顎に押し当てながら脳内の記憶の引き出しをあちこち開けた結果、ある人物の誕生日に行き当たった。
「あ・・・・・。ねぇ日吉?」
「何ですか?」
部活の時間に切れてしまったガットを手際よく張り替える日吉の手先を見ながら声をかけると、日吉は作業に集中しているためか一切こちらを見ずに返事を返した。
礼儀正しいのか無礼なのか良くわからない後輩である。
「今日って日吉の誕生日だよね?」
「そうですが」
日吉は漸く手元から顔を上げると「それが何か」とでも言いたげな視線をこちらに投げた。
不覚にもバッチリと視線が絡んだことに驚き、その真っ直ぐな目から視線を逸らすことができない。
まるで見つめ合ってるみたいだなぁ〜・・・・・なんて馬鹿なことを考えて無意味に動揺してしまう。
・・・・・・・馬鹿だ。
「えっとさ、プレゼント何が欲しい?」
「プレゼント・・・・くれるんですか?」
「日吉の誕生日に丁度こうして2人だけ残ってるってのも何かの縁だしね」
驚いて目を見開いた日吉に笑いかけてそう言えば何やら思案の表情。
「・・・何でもいいんですか?」
「へ?あ、うん。って言ってもあんまり高いものは無理だけど」
そんなこと改めて聞くなんて一体どんな物を強請る気なのか。
何でもいいと言えるほどの予算が入っていない己の財布の中身を思い出してちょっとだけ後悔した。
「先輩」
「ん?なぁに??」
急に呼ばれたからどうかしたのかと首をかしげた。
聞き返しても何も答えないので余計に頭の中を疑問符が占拠することになる。
日吉は黙りこくっているし、私もこれ以上何か返すべきか迷って結局無言だった為、自然と沈黙が場を支配した。
先に沈黙を破ったのは日吉の零した大きな溜息。
日吉は持っていたラケットを置いて徐に立ち上がり、ロッカーの前から私の座わるソファーまで歩み寄ってきた。
「だから先輩が欲しいです」
「はい?え、私!?」
そこまで言われて漸く名前を呼ばれたわけじゃなく、欲しいものとして指名されたのだと気づいた。
「何でもいいんですよね?」
目の前まで来た日吉は不適な笑みを浮かべてまるで逃がさないとでも言うように、私の座るソファに両手をついた。
囲い込まれるような体勢にアタフタする私の顔は赤く色づいているに違いない。
だってこれじゃ愛の告白のようではないか。
心臓がバクバクとやけに煩くて頬がやけに熱くて・・・・。
「・・・・・・・だ・・・・大事にしてよね」
口を吐いて出たのは図らずとも肯定の言葉。
自分自身でも驚いたが、目の前の後輩もまた同じようで不適な笑みはどこへやら。
呆けた顔でマジマジと私を見た後、漸く言葉の意味を理解したらしい日吉は嬉しそうに私を掻き抱いて「当然です」って耳元で囁いた。
好きではなかったはずなのにOKしてしまって少しばかり罪悪感を感じたけど、それもすぐに霧散した。
ひどい?
そんなことないよ。
だってね、
私を抱きしめる時の嬉しそうな日吉の顔を可愛いと思った時点で、きっと私の恋は始まったんだと素直に思えたから。
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Atogaki
2009年日吉BD夢でした。
仁王の時といい期日に間に合わない自分に乾杯!!←
長さはSSでネタもベタ。
でもこういうベタなネタ好きなんです。
まぁベタネタなので他サイトさまと被ってしまう可能性は大ですがパクりではないのでご理解ください。
何はともあれハッピーバースデイ日吉☆
(2009/12/08)