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共家〜Share House〜

ある日の朝

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 パステルカラーのカーテン越しに差し込んでくる光が、起床をやんわりと促す。

 起きて朝ごはんの用意をしなくては……と、頭の片隅で己を叱咤する声が聞こえた気もするが、眠いものは眠い。まだ目覚ましだって鳴っていないじゃないかと言い訳しながら、惰眠を貪るのは最高の贅沢だ。

 それにしても眩しい。

 閉じた瞼を透過してくる光が眩しくて、寝返りを打――てない。
 あれ? 体が動かない?


「う……ん?」


 怪訝に思って瞼を持ち上げれば、目の前にはモジャモジャ。いや、パーマのかかった黒髪の持ち主が、すやすやと気持ちよさそうに寝ている。

 しかし、寝返りが打てなかった原因は他にあるようだ。背後から回った腕が、どうも自分を雁字搦めにしているらしい。細いようでしっかりと筋肉のついた腕は、私の胸の上できれいに交差していた。

 もう一度言おう。胸の上で。


「ほわぁっ!」


 飛び起きようにも腕が邪魔で起きられない。しかも目の前で寝ている輩も起きやがらないし……。


「ちょ、赤也! 起きて助けて! てか、この腕って誰? 若? リョーマ?」


 目の前の頭をバシバシ叩いてみても、回った腕をベシベシと叩いてみても、一向に状況は改善されない。どうしたものか、と思案していると背後からノック音が聞こえてきた。


「何かあったのか?」

「わ、若! 悪いけど助けて!」


 天の助けが来たらしい。ついでに腕の持ち主もハッキリと判明した。


「リョーマ、いい加減離してよ!」

「入るぞ? ……何してるんだ?」


 呆れたような声で問われると、自分は何も悪いことなどしてないはずなのに、何だかいけないことをしているような気分になる。とりあえず動けない私は、首だけで若の方を振り返った。


「リョーマに抱きつかれて動けないの。しかも手が……」

「手が?」

「……胸の上、だし」


 どうにも恥ずかしくて視線を逸らすと、若の溜息が落とされる。それとほぼ同時に、背後でゴンッと鈍い音が聞こえた。小さな呻き声が聞こえたかと思えば、今までどうやっても離れなかった腕が、スルリと離れて私は自由の身になった。


「起きろチビ助」

「……っ、何すんのさ」

「いや、それは私の台詞」


 思わず突っ込めば、不満げに眉根を寄せたリョーマと目が合った。

 いやいや、どう考えても君が悪いだろうよ。


「あとそこのワカメ、いい加減起きろ」

「無駄だって若。さっき叩いても起きな――」

「誰だワカメつったの!」


 起きたよ。そして何故そこで私を睨む!


「私じゃないってば!」

「じゃ誰だよ!?」

「リョ、リョーマ!」


 流石に助けてくれた若は売れない。横から「俺じゃないじゃん!」って叫んでいるのが聞こえたが、私はさっきの件を根に持っているのだ。助ける気はない。

 さて、朝ごはんでもつくるか。と布団から抜け出し、若の背を押しながら部屋を出る。まだ部屋の中から言い争っている声が響いていたけれど、そのうち飽きて出てくるだろう。


「今日は朝も晩も若の好きなのにするね?」


 そう言って若を見上げれば、普段あまりお目にかかれない麗しい笑顔がそこにはあった。



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