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Winter Surprise?

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「のぅ、……」

「何よ?」

「これは一体どういう状況なんじゃ?」


 呆然と口を開いた雅治の目の前には、やたらと背の高い建物。建物の入り口と思わしき場所には10代から20代と思われる女性が列を成して並んでいた。


****


 事の始まりは――……。


 午前3時。早朝と言うには早すぎる時間に、枕元に置いておいた携帯が突如鳴り響いた。
 布団から覗く銀糸の髪がもそもそと動いたかと思うと、探るような手が音を探して彷徨う。
 ピッ。
 彷徨う手、もとい仁王雅治は、ようやく探し当てた携帯を引き寄せ、相手も確認せずに通話ボタンを押した。自然と、夜中に自身を叩き起こす電話に、発する声は低くなる。


「…………なん?」

「4時に駅前。午後じゃなくて午前だから間違えないでね」


 ピッ、ツーツー……。
 返事を待たずに切られた電話に暫し呆然とした後、雅治は急いで時間を確認した。携帯のディスプレイに表示された、デジタル表示は午前3時5分。


「……ピヨ」


 ――待たせたら……不味いのう。


 寒さゆえに布団から出たくない気持ちと、待たせた後の自分の惨状を天秤にかけ、雅治はのっそりと布団から這い出した。


****


 …………その結果が冒頭である。


 てっきり初詣にでも行く気なのかと思いきや、どうやらまるで違ったらしい。


「見ればわかるでしょ? 初売り! バーゲン! 福袋!」


 さも当然と胸を張る己の彼女の姿に、雅治はどこから突っ込んでいいのかわからなくなる。


「つまり?」

「雅治は福袋獲得要員。ほら、とにかく並ぶわよ!」


 ポケットに突っ込んだままの腕を引かれ、傾いた体をそのまま引き摺られるようにして連れて行かれる。もちろん、行き先は女性のひしめく例の列だ。
 チラチラと注がれる視線に居心地の悪さを感じながら、揃って列の最後尾に立つ。雅治を引っ張っていたは列の後ろに立つなり、鞄の中をガサゴソと漁りはじめた。


「……はい。この赤で囲ってあるのが目的地だから」


 渡されたのはデパートのフロア地図。ペラペラとページを捲ると、言われたように三箇所に赤い丸で囲んだ印が見えた。


 ――一人で三箇所って、正直無理じゃろ……。


「ほら、あとコレ!」


 どうしたものかとフロア地図に視線を落している雅治の目の前に、声音と共にガサッと音を立てて暖かい物が飛んできた。


「……ホッカイ、ロ?」

「いらないの?」


 そう言ってソッポを向いたに視線を遣ると、渡した本人の方が微かに震えているのがわかる。何の説明もなく呼び出したことを、本人なりに気にしているらしい。
 小さな手を自分に見えないように擦り合わせる姿を見て、雅治の口端が自然に緩む。


「いらんよ。が使いんしゃい」


 渡されたカイロをあっさりと返すと、雅治はの片手をぎゅっと握って、彼女の目線まで繋いだ手をグイッと持ち上げて見せた。


「俺はこれで十分じゃ」

「…………そう」


 そっけない言葉と裏腹に、朱に染まった顔を隠そうと俯くに、愛おしさが募る。


 ――仕方ないのう。


 フロア地図とを見比べて雅治は静かに深く息を吐いた。


「まーくん頑張るナリ」


 つい先程までは絶対に無理だろうと思っていた福袋争奪戦の全勝すら何とかしたくなって、雅治は繋いだ手に僅かな力を込めた。そんな雅治の言動に、
は淡い笑みを浮かべて嬉しそうに口を開いた。


「……一つの取りこぼしも許さない……だから、ね?」

「おまんは真田か? が、まぁ……何とかするぜよ」


 言った途端、どちらともなく笑い出す。
 二人で顔を見合わせて笑うと、冬の寒さも和らいだ気がした。




WinterSurprise?



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