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指輪代わりにキスひとつ
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「ジャジャーン! ついに私も貰っちゃったよ〜!」
「おー! 可愛いじゃん!」
「でしょでしょ!」
****
「……いいなぁ」
教室の後方から騒いでいる女子を眺めて、私は密かに呟いた。
実は最近我らが青春学園では、彼氏の誕生日に彼氏から彼女へ指輪を贈るという、何とも不思議な習慣が流行っている。はじまりは多分三年の……誰だっけ? とにかく、青学でも有名な3年の先輩の誰かが、自分の誕生日に「君を将来ごと貰えるかな?」とか言って彼女に指輪を渡したって噂が校内に広がり……だったかな? まぁ詳細は定かじゃない。
けど、彼氏から指輪ってだけで女の子のテンションなんて簡単に上がっちゃうわけで、この習慣が流行った一番の理由はそういう単純なもんだと思う。
もちろん例の台詞は恥ずかしいからって、省略されることが殆どらしいんだけど……。
「羨む前に、には彼氏居ないでしょ!」
突然後ろから抱きつかれ、驚きで体が跳ねる。振り返るとしたり顔で笑みを浮かべる友人の姿。
「……余計なお世話」
わざと素っ気無く言葉を返しながらも、内心はどきどきだ。
何でって? 彼女には言ってないけど私にだって彼氏が居るのだ。それも、
「リョーマ様!」
「越前くーん!」
黄色い悲鳴を平然とした様子で背負って立つ我が校の人気者、越前リョーマその人である。
夏の大会でテニスの実力を遺憾なく発揮した彼は、その活躍と元来の容姿の良さとが相俟って人気赤丸急上昇。ファンクラブも正式に出来たらしい。
つまり、下手に『彼女で〜す』とでも言おうもんなら……。ね? 怖いでしょ? そんなわけで、私とリョーマは現在ヒミツの交際中なのだ。
「わぉ、やっぱ色男は登場も違うね〜」
「だね」
ケラケラと笑いながら話す彼女に軽く相槌を打ちつつも、正直笑えない。だってさ、黄色い声の数だけリョーマのこと好きな女の子が居るってことでしょ? とてもじゃないけど気が気じゃない。だからこそ、余計に指輪が羨ましいのかもしれない。
"確かな証"として。
****
「てことで、指輪が欲しゅうございます殿!」
「……意味わかんないし」
帰り道に冗談混じりに指輪をねだってみたが、あえなく撃沈。そりゃあそうか。理由なんて一切話してないんだもの。
別に高いやつじゃなくたって良いんだ。それこそ雑貨屋さんで三百円くらいで売ってるやつで良い。私が欲しいのは形のある安心、形のある愛の証だから。
でもそれはイコール、リョーマを信じてないって言ってる様なもんだし。
「冗談冗談! っと、もう分かれ道だ。じゃあ明後日の終業式の後はデートだから忘れないでよ!」
「はいはい。じゃーね」
訝しげな表情を浮かべるリョーマに、話題を無理矢理切り上げて背を向ける。だいぶ素っ気無い態度だったかな? と心配になったけど、リョーマも私と大差ない素っ気無さで歩き出したみたいだから大丈夫だろう。それにしても素っ気無さすぎでしょ。
「あ〜あ、やっぱ無理か……」
思わず呟いた言葉は白い吐息に変わって、薄闇の空に溶けた。
****
服良し! 靴良し! 髪形良し!
プレゼントも持ったし準備は万端だ。
「いってきまーす!」
終業式が終わって、私は一目散に家に帰った。折角のデートだし可愛い格好したいってのと、単純にリョーマの誕生日プレゼントを取りに。誰にも付き合ってること言ってないのに、プレゼントなんて持ってたら余計な勘ぐりされちゃうからね。
一方のリョーマも一度帰宅。あちらは貰ったプレゼントの量が多すぎて、一度家に置きに帰らなきゃって感じ。私以外から貰わないで……とか言いたいけど、言ったとしても多分無駄だ。だって、リョーマ自身要らないって断ってたけど、知らないうちに靴箱や机の中や、机の上に大量に置かれてるんだもん。
もうヤキモチ云々よりも、いっそ感心しちゃうよ。
「え〜っと? リョーマはまだ、か」
待ち合わせの駅前で彼の姿を探すも、てんで見当たらない。というか人多すぎ。
近くにあったベンチが空いたので、腰掛けて携帯片手に待つことに。
「ん〜」
リョーマから連絡があるかもしれないからって携帯画面を睨んで唸っていると、不意に頭上に影が差した。慌てて顔を上げてみると、そこには私服姿のリョーマが立っていた。上は白のパーカーに黒のダウンベスト、下はタイトなデニムにスニーカー。貴重な私服姿に思わず視線を逸らせずにいると、余りにもあからさまな視線だったせいか笑われた。
「何見惚れてんの?」
ニヤリと口の端を上げて揶揄うような笑みを浮かべるリョーマに、思わず目を奪われる。
かっこいい――って、これじゃエンドレスループじゃん! 慌てて首を横に振ったのだが、目の前のリョーマは目を見開いて固まっている。
「リョ、リョーマ?」
「へ〜、俺ってかっこいいんだ?」
どうやら口に出してしまってたらしい。
「……か、かっこいい。リョーマはかっこいいよ」
意地悪なリョーマの声がツボにはまり、うまく誤魔化せなかった。
いやね、私マゾじゃないけど! けどさ、そういう言い方似合いすぎなんだよ、リョーマってば。やっちゃったなぁ〜と、言うだけ言って俯いたんだけど、いつまで経ってもリョーマの声がしない。
恐る恐る顔を上げると、真っ赤な顔をしたリョーマが居た。
「ったく、反則だよね。……、手出して」
「へ? 手?」
言われるままに手を差し出すと、掌に小さな箱を乗せられた。
「クリスマスプレゼント」
「え? あ、ありがとう!」
何だろう?
「……開けたら?」
「う、うん」
きっと顔に出てたんだろうな、恥ずかしい。
でも、誘惑には勝てなくて、私はそっと包装を解いた。
「かわいい……」
中に入っていたのは、小さなハートがついたネックレス。
「は指輪が欲しいって言ってたけど」
言いながら、リョーマが私の左手を掴んだ。そのままリョーマの目線の高さまで持ち上げられ、ボーっとしている間に、薬指に口付けられた。
「へ!?」
「此処は、俺が自分の力で飾るって決めてるから。だから、今は予約ね」
まだ中学生だよ、とか。それまでに気持ち変わらないの、とか。色んな想いが胸中を交錯したけど、それでも私の言ったことを流さないでいてくれたのが嬉しかった。
何より、この先を一緒に過ごすつもりで居てくれるのが嬉しかった。
「ほら、そろそろ行くよ」
「あ、うん」
掴まれた手を引かれて歩き出す。
願わくば、これから先もずっと二人で歩いていけたらいいな。
指輪代わりにキスひとつ
(その日が来るまで、愛の証はネックレスに委ねよう)
後からリョーマに聞いたところ、例の三年生はリョーマの先輩の不二先輩なんだってさ。
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まずは、最後まで読んで下さったお嬢様、本当にありがとう御座いました。
二月に入ってのクリスマス。季節外れで申し訳ないです;
主催者なのに一番最後の提出で肩身が狭かったりもしますが、とりあえず書き終えれてホッとしてます。
実はリョーマを書くのは初でして、雰囲気違ったりするかもしれませんが、生暖かい目で眺めて……見守って頂ければ幸いです。
それでは、また春にてお会いしましょう^^
お題 SEVENTH HEAVEN様 (閉鎖or移転)
Black Strawverry 桜花 (2011/02/25)(サイトでのup 2011/04/18)