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猛獣の飼い方10の基本

02-じぶんをしゅじんだとにんしきさせましょう

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何が『お前何者だ!?』……だ!!

だから今それ話そうとしてるんじゃない!!!!
思い切り睨みつけると、何故かノブナガ硬直しちゃったし。
途中で断念するくらいなら突っ込んでこないでよね!!


「え〜と……どこまで話しましたっけ?」


力を入れて刀を払うと、視線を戻して首を傾げた。
直前の話の内容を忘れるなんて老化が始まったとかじゃないよね!?
我ながら吃驚だわ。


がこの世界の住人ではないというところまでだ」

「そうでしたね。もう端的に言ってしまえば、神もどきの暇つぶしの為に世界を渡らされた可哀想な子ってとこです。はい」


ノブナガは硬直したままなので、取りあえず放っておいても害はないと思う。
クロロに視線を戻す前に、チラリと他の面子を窺うとフェイタンは……うん、臨戦態勢。
シャルは探るようにこちらを見ていた。
意外だったのはマチ。どうやら彼女の勘では私は敵ではないと見做されたのか、警戒を僅かに緩めてさえ居る。

それにしても、まとめ方おかしかったかな?
会話が途絶えてしまった。
黙り込んでしまったクロロの反応に不安が募り、心臓がバクバクとやけに大きな音をたてて鼓動する。


「……証拠は?」

「私コレしか持たされてないしなぁ〜。手に持ってた筈の愛しのHUNTER×HUNTERさえ無くなってたし……」

「愛しのHUNTER×HUNTER?」

「そう世にも素晴らしい本よ!!」

「ほぅ、それは興味……」

「持たなくて良いです!!」


口が滑ってしまったのは確かだが、変に興味を持たれてしまっては厄介だ。
少しばかり目に力を込め、クロロが言い終える前に口を挟ませてもらった。

これでクロロが黙してしまったのは予想外だったけど、それ以上に予想外な光景が視界に入ってきて驚く。

何と言うか……黙ってしまったクロロを見て、フェイタンまでもが黙ってしまったのである。てっきり攻撃されるものだろうと予測していただけに、肩透かしを喰らったような妙な気分になった。
いや、攻撃なんて喰らいたくはないよ? マゾじゃないですから。断じて!


「え〜と、つまり証拠は……洋服のタグくらい?」


…………えぇ、自分でも何言ってんだって思いますとも。

だって他に何にも思い浮かばなかったんだもん!!


でもこれって十分証拠じゃない?
『 made in JAPAN 』だの『日本製』だの。
まぁ、国は色々だけどこの世界に存在しないことだけは確かだし。
字だってハンター文字ではない。


まぁ一つ難を挙げるなら、この世界の服にタグが付いているかどうか……だけど。


「……なら見せてみるね」


私が答えを発する前にフェイタンが私の眼前まで来ていて、何を思ったか――や、証拠を確かめようとしたんだろうが――行き成り服の裾を捲り挙げた。

私は確かにヲタク入ってるけど、それでも立派な乙女なのだ。
しかもブレザーを……とかじゃなくて、何でスカートをチョイスしちゃうのかな〜このちびっ子は!!


私はスカートを掴むフェイタンの手を捻り上げ、足を払ってその場に転がした。

乙女モード>ヲタクモード状態の私の心中においては、“打倒乙女の敵!!”的なテンションなのである。
それは火事場のバカ力にも似たもので、普段のチキン気味な自分はすっかりなりを潜めてしまったようだ。


そのまま無言で睨みつけると、本人どころか周りさえも瞬間冷凍されたように硬直してしまった。
何か、どうもさっきから旅団のみんなの反応に不審を感じるのは気のせいだろうか?

しかも何故か一瞬手の中の本が暖かくなった気がする。
つい熱くなっちゃったし、握り締め過ぎちゃったのかな? 変なクセつかなきゃ良いけど。


――っと、今はそれどころじゃないんだった。


「見るなら上着のとかで良いと思います。それか、そこの女の人に見てもらうとか」


マチの方へ視線を滑らせれば、想像通りというか何というか、物凄く面倒くさそうな表情。
何でもいいけど眉間にしわよせると取れなくなるよ、と切実に忠告したい。せっかく綺麗な顔なのに……。
まぁ、その表情見りゃ上着しか選択肢はないよね。


私は自分のブレザーを脱ぐと、彼らのリーダーであるクロロに向けてそれを放った。
今の今まで呆けていたらしいクロロは、それでも難なくそれを手中に収める。
……何か悔しい。
タグという言葉に対しては誰も口を挟まなかったので、この世界の衣類にもあるようだ。
何だか意味の無い知識が増えた気がする。


迷い無い仕草でタグを探し当てるクロロの姿を見ながら、私は少し緊張していた。
だってこれ以外に証拠らしい証拠もないのだ。
これでだめだったらどうしようかな。

持っていた例の本をギュッと握り締め、死刑判決を待つ罪人のように立ち尽くす。


「……なるほど。どうやら嘘ではないらしい」


クロロは徐に立ち上がると、瓦礫の上から私の真ん前まで飛び降り、ブレザーを差し出した。
私がそれを受け取り羽織りなおす間に、クロロは団員達を一瞥して、私に手を出すことを禁じる命令を出していた。


何かよくわかんないけど、これは上手くクロロの興味を惹くことに成功したってことかな?
とりあえず死亡フラグさえ撲滅できれば文句はない。


「じゃあ改めて。俺はクロロ=ルシルフル。クロロで良い。敬語も不要だ」

「あ、はい……じゃなくて、わかった。よろしくクロロ」


少し調子に乗って、笑顔を作りながら恐る恐る手を差し出してみたら――何と握手してくれました! 手の骨砕かれたりしないかな? なんて少し物騒なことも考えたけど、私の骨は無事でした。

クロロが挨拶したからだろう。他の団員も渋々だか、ノリノリ(ま、これはないだろうけど)だかはわからないけれど、順に自己紹介してくれた。
ちなみにフェイタンも片言の素敵な自己紹介をしてくれました。


これから仲良く――少なくとも何かある度に殺される心配や、拷問される心配をしないで済むくらいには――なれると良いな……。



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