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猛獣の飼い方10の基本
03-せをむけてはいけません
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ものすんごい勢いで避けられてるよね、私。
マチやノブナガ、クロロと顔を合わせた際、さり気なく布について訊いてみたが、いずれもハズレ。ともすれば残すはフェイタンのみである。
そこでフェイタンを探すぞ、と息巻いてみたのはよかった。
が、何とそれから早二週間。私は未だフェイタンを捕まえることが出来ずにいる。
ちょっと待って。これじゃ本当に「アイツこちと宜しくする気ないね」なんて言って殺害許可貰いに走ってるみたいじゃない!?
私ピンチだ。超ピンチだ。
ところで超って死語だろうか? なんてどうでもいい思考まで一緒くたになってくる始末。
安全圏からの鑑賞は一体どこへ行ってしまったのか。このままじゃ一級フラグ建築士への道まっしぐらだ。勘弁して欲しい。
仮に、仮にフェイタンにそんな気が無かったとしても! うん、儚い希望だけど。それでも、私はフェイタンを追うしかないのである。
本が示す猛獣はきっと、多分、恐らく、全く以って不本意だけど、フェイタンだ。放置してたら私は家に帰ることはおろか、元の世界に帰れるかすら怪しくなる。しかも、本には背を向けるなって言われちゃってんだから、追い続けるしかない。
てなわけで、クロロに余計なことを言われない内に何とかしなければという思いで、今日も今日とて私はフェイタンを捕まえようと廃墟をうろついている。
ちなみに余談だが、何故フェイタンが外に行かないのかと言うと、クロロのせい――もとい、クロロのお陰だ。私の行動を面白がったクロロにより、フェイタンは仮宿から出るのを禁止されてしまったのである。勿論、クロロの護衛という名目付きで。
哀れフェイタンは籠の鳥と化し、私は鳥を狩る猫の如くフェイタンを追って居るわけだ。
本のことは挙げたけど、この際本の○印をつけることは後回しかな。死亡フラグの阻止が先決だろうし。
って言っても、置きっぱなしにして何かあっても困るから、持ち歩いてるんだけどね、本。
「にしたって何処に居るのさ……」
橙の光が差し込む廊下は、散らばるガラス片に光が反射して時折ハッとするほど眩しい。
今日もまた収穫なし、か。そろそろ本気でヤバイ気がする。明日殺される、なんてことにならなきゃいいけど。
一階の回廊。フェイタンの使用している部屋の前で足を止める。
「まさか部屋に戻ってる……なんてこと……」
勝手に開けるのは憚られるけど、人間直感が大事だって言うし。
自分に言い訳をしながら、そっと扉を押し開ける。が、当然と言うべきか、人の姿など見当たらない。あるのはクローゼットとベッド。床に散らばる拷問器具なんて見えてないからね!
そういえば、こういう時中の人が天井に張り付いてるとかベタな展開だよね〜。と、私が視線を上げると――いた。
正直に言おう。格好悪いです。はい。
蜘蛛だけに蜘蛛っぽくって? てのはあんまりか。それにしても、崩れかけた天井に手足を引っ掛けてるにしたって、体重軽すぎなんじゃ……。
呆気にとられて目を瞬くと、天井に張り付いているフェイタンと視線が合った。
「……何見てるか」
「いや……見ちゃうでしょう。これは」
クロロからの命令で窓の外には行けず、入り口は私が塞いでいる。千載一遇のチャンスだ。そう思ったのも束の間。フェイタンはあっさりと天井から降りると、素早く移動し、壁を壊した。あれだ。漫画でゴンがやってたあれ!
――って、それは困る!
「ちょ、待って!」
手に持っていた本を丸め、槍投げの要領で投げる。距離ではなく速さを重視してるから、軌道は低めだ。本は驚くべき速さで弧、と言うより直線を描いてフェイタンの背に激突した。ズシャっと割と残念な音を立ててフェイタンは地面に顔面ダイブ。旅団ですら避けられないとか、流石は神様の本と言うべきか。
いやいや、それより今はフェイタンだ。
中々起き上がる様子を見せないフェイタンに、私は鼓動が増すのを感じながら、ゆっくりと近づいた。一瞬だけ躊躇い、傍らにしゃがみ込む。
「だ、大丈……夫?」
フェイタンは問いに応えることなく上体を起こすと、鋭い視線で私を睥睨した。
「お前いたい何のつもりね」
硬質な声。
「だって、逃げるから」
「……何故ワタシ追うか」
何故も何も、死亡フラグを破壊するためです!
つまり礼儀知らずじゃないよ、とアピールするためであり、お礼を述べるためだ。
「これ、フェイタンが掛けてくれたんじゃないのかな? って」
制服のポケットに押し込んでいた布を引っ張り出し、フェイタンの前に翳す。が、フェイタンは何も言わない。無言は肯定ってことでいいんだろうか? ていうか肯定だよね。うん。
それがどうしたと言わんばかりの視線に、たじたじになりながら、私はそっと深呼吸をした。
「えーと、ありがと」
だから是非とも殺そうだなんてしないでやってください。
旅団員になんて、どうやったって敵いっこないんだから。
私の必死な思いが通じたのか、ぎこちない笑顔を浮かべて礼を言えば、フェイタンは私を危害を加える素振りもなく、ただ何も言わずに立ち上がり、私の本を拾い上げて投げてよこした。
僅かに光を放った本を。