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パキンパキンとガラスの破片を踏み鳴らしながら、私は五階の廊下を歩いていた。何度も瓦礫に足を取られかけ、その度にヌードルが腕から転がり落ちそうになるのが少々鬱陶しい。
空き部屋ならどこでもいい。当初こそそう思って歩き出したものの、どうせなら眺望が良い方が部屋に篭った時も楽しめるだろうと、最上階へと足を向けていた。……というのは建前で、実際は自分の世界と変わらない空を求めて、最上階へと登った次第だ。我ながら女々しい。
「角部屋空いてるかな〜?」
隣人も居ないだろうに角部屋を望んでしまうのは無意味だろうか。
自分の言葉に疑問を抱きつつも、私は軽快なステップで瓦礫に躓きながら、目的の場所までやってきた。
ドアは、かろうじて正常を保っている。が、それ故に腕に抱えたヌードルがとてつもなく邪魔だ。仕方なくバサバサと落とすようにヌードルを解放して、いやこの場合は自分の腕を解放したのかな? まぁ、とりあえず自由になった手で扉を開いた。次の瞬間、私は可能な限りの速度でもって扉を閉めた。
一瞬。ほんの一瞬だったが、積み重ねられた本の山に、この部屋の主を知った。
幸いにも主不在な様子ではあったが、一瞬のことなので、それも定かではない。ここは触らぬ団長に祟りなしだ。
そそくさとヌードルを拾い上げると、逃げるように部屋の前から踵を返す。
当初寝かされていた部屋は一階。あそこは恐らくフェイタンの部屋だろう。三階がシャルで五階が団長とくれば、嫌な予感しかしない。ここに居る面子は五人。と、いうことは各々が一フロアを使っているのではないだろうか。
つまり、どの階にいっても誰かと同じフロアという具合だ。
嬉しくない。というか最悪だ。流石に寝る時くらいリラックスさせて欲しい。
誰も居ないところ。誰も居ないところ。どこか、一つくらいあっても……そうだ京都――もとい、屋上へ行こう!
屋根も壁もないが、下手な緊張感が伴わない分、まだマシに違いない。
思いついた考えに足取りも軽くなる。先程降りてきた階段を駆け上がり、屋上へと足を踏み出した。青い空と白い雲、そして燦燦と降り注ぐ日差しと……黒い人影?
流れる風に靡かれて、黒い布がはたはたと舞う。
「……フェイタン?」
声をかけると、気配であらかじめわかっていた為か、さして驚いた様子も見せずにフェイタンは振り返り、そして消えた。
そう、消えた。屋上から飛び降りたのだ。
「ちょ、ここ実質六か……い……って、この世界じゃ人が平気で空から降ってくるんだったっけ」
ハンター協会会長が飛行船から華麗に登場した原作を思い出して、どっと力が抜ける。
凄い世界があったもんだ。
ヌードルを下ろして自らも座ると、ふと何かを忘れている気がして首を傾げた。はて、何だったか……。
「あぁ! しまった、布のこと聞きそびれた」
もっとも、聞く余裕など何処にも無かったには違いないのだが。
「……仕方ない。布について聞いて回るついでに布団になりそうなものとか、使えそうなものとか集めてくるか」
そうと決まれば行動あるのみ。
トランプタワーの如くヌードルを積み上げると、私は再び建物の中に足を踏み入れた。