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婚約者からお願いします?

第2話 助けを求めて三千里

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衝撃の見合い話を知らされた翌日。

朝も早くから、私は自分ちに似たり寄ったりの日本家屋に来ていた。

うちと違うのは、古民家が他にもあり、周囲から浮いた存在ではないってことと、道場が併設されてる分広いってことかな? あときちんと管理されてるから歴史は感じさせるが、ボロッちくはない。

私はインターフォンを鳴らすでも無く、「ごめんくださーい」と断りを入れるでも無く、勝手に数奇屋門に手を掛けて中に入り込む。飛び石の散らばるアプローチを抜けて玄関まで辿り着くと、数奇屋門同様、ガラガラと音を立てて無遠慮にスライドさせた。


鍵? そんなん持ってるから問題なしだ!


「おじゃましま〜す!」


返事なんて勿論待たない。
靴を脱いで上がり込むと、目的地に向かって猛然と突き進む。

何だっけ? 勝手知ったる他人の家(?)というやつだ。

私の家も、ここも、平屋なので二階はないが、その分広い。途中、台所で料理している小母さんに挨拶をしながら廊下を駆け抜けた。

そして、ある部屋の前まで来ると、襖に手をかけ、これまた無遠慮に開け放つ。
勢いよく開け放ったせいで、襖がスパンと小気味いい音を響かせる。


うん、我ながらいい仕事した!


「わかしー―――!!」


和室に似合わないベッドに、飛び掛かるように乗れば、下から「うぐっ」という鈍い声が上がった。


……退け……」


寝起きの機嫌の悪さと、元々の目つきの悪さが相俟って、若の視線は中々の迫力だ。
私は慣れっこだから平気だけど、ちっちゃい子が見たら泣いちゃうかも。

な〜んて考えて、そのままの状態で笑ってたら、段々若の視線が鋭さを増してきたので、ここらで大人しく退くことにした。

怒らせると面倒だしね。

私は少し位置をずらして、ベッド脇に浅く腰を掛け直した。


「ごめんごめん。寝てるとこ起こして悪いんだけどさ、助けて?」

「……は?」


あんまり寝起き一番に言われるようなセリフじゃないだろうし、若の反応が正しいんだろうな〜。
「助けて」の部分を微妙に猫なで声で言ったせいか、若の眉間に皺まで寄っちゃったよ。


「睨まないでよ。若んとこの、パッチン部長の好みを教えて欲しいだけなんだから」


私の言葉に若は無言だ。

って言っても、目だけは異様に見開かれてたから驚いてるのは明らかだよね。

お〜い、どうした若?


……お前、跡部さんを?」


ん? 何か勘違いされてる気がしないでもない。

好みのタイプを聞いただけ……って、う〜ん……十分誤解するかも?
え、てことはなに? 若の頭の中で私は『パッチン部長L・O・V・E☆』なわけ?!

いやいやいやいやいやいや、ないから!


「違う! 違うからね!! 何て言うの? 苦手なタイプってか、嫌いなタイプってか……」


とにかく私はパッチン部長なんか別に好きじゃない!
てか好きだったら今日ここに来てないし。

しどろもどろしながら言葉を紡ぐと、いつの間にか体を起こしていた若に、落ち着けと頭を撫でられた。

私の方が年上なのに……。


「で? 何でいきなり跡部さんなんだ?」


未だ私の頭に手を乗せたまま聞いてくる若の声は、常よりずっと柔らかい。
ようやく落ち着いた私は、促されるまま昨日のことを若に話すことにした。



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