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「――……ってわけなんだ」
「なるほど。こっちからじゃ断れないから、向こうから断ってもらう。そう言うことか? もういいぞ」
「もういいぞ」を合図に、若の方を振り返った。
実は話を聞きながら、若は着替えていて、その間私は後ろを向いてたってわけ。
タイトなブラックジーンズにグレーとチャコールグレーのブロックチェックのカットソー。
カットソーは七分で、襟と袖の折り返し部分はブラックになっている。
寝るときは浴衣なのに、普段着は結構カジュアルだよね。
「跡部さんか。……ミーハーな奴はあまり好きじゃないだろうな」
言いながら若が座卓の前に腰掛けたから、私も釣られるように畳……いや、若が私用に置いてくれてる淡萌黄色の座布団に座る。
黒い正方形の座卓を挟んで、若と向かい合う形だ。
「というと?」
だってあのパッチン部長ってば、ノリノリで「俺様の〜に酔いな」とか言ってたよ? 他校だからあんまり知らないけど、前に青学の試合見に行ったとき、たまたま近くのコートで試合してて、確かそんなこと言ってた。
それなのにミーハーは嫌いってのは、やっぱり納得いかない。
「……あいつらはな、限度を知らないんだ」
どこか疲れたように吐き出す若の言葉には、何だか実感が篭っている気がした。
「限度?」
「あぁ。私物を盗む、隠し撮りをする、俺達に近づく女子生徒を片っ端から排除する。おちおちマネージャーも入れられない」
しかも、女生徒排除には親の権力をフルに行使するらしい。
……恐ろしい話だ。さすが金持ち校。
鷹揚に答える若を前に私は少し考える。
何をって? 効果があるかどうか。
普通に考えれば大丈夫……なんだろうけど。普通に(強調)考えれば……ね?
「なるほどね。でもそれだけじゃ微妙〜」
だってミーハーな子でも多少は相手してそうだし。
うん、これは私の勝手な想像なんだけど。
……まぁ、自分の婚約者がミーハーってのは確かに嫌だろうけど、少しでも勝率――この場合敗率? を高めるには、それだけでは不安だ。言うなれば、決め手が欲しい。
私の平和と青春(?)の為に!!
おじいちゃんにも言ったけど、私は恋愛結婚派なのだ。
てなわけで、
「……若、私やっぱパッチン部長の好みのタイプ知りたいかも」
要はミーハーを演じつつ、パッチン部長の好みと逆の子を演じれば良いのだ。
私がその考えを告げると、若にも異論は無いようであっさりと教えてくれた。
「勝ち気な人……らしいがな」
「勝ち気かぁ〜。ってことはオドオドしつつミーハー? 何か面倒な子だね」
想像したら普段の自分と掛け離れてて、何だか笑えた。
可愛い子がおどおどしながら頬を染めたりしてりゃあ、それは可愛いかもしれないけど……うん、自分に置き換えたらビックリするぐらい鳥肌が立った。
演じきれるかは大いに謎だけど、何もしないより遥かにマシかな? ってことで、これから見合いの日まで、演劇部の友達に演技指導を頼もう。そうしよう。
鳥肌モノでも我慢だ、我慢。
若も想像したのか、腕を擦っていた。
妙に腹立たしかったけど、自分でも鳥肌モノだったから敢えて何も言わない。
……でも、若にお礼として“ぬれせん”を買ってあげようと思っていたのは取り止めた。
大人気ない? 聞こえませ〜ん。