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「あ〜しんど……」
夏休みが明け、夏の大会で引退した元演劇部の友達に、見合いぶっ潰すのに協力しろと言うと、なんと元演劇部の女子全員(つまり演劇部の三年生女子全員)で演技指導すると言い出した。
ありがたいと思ってお願いしたんだけど……今はちょっと早まったかな〜と思ってる。みんな演技のことになると人が変わるっていうか、厳しすぎっていうか。
頼んだ後で気づいたんだけど、青学の演劇部は全国大会で優勝とかしちゃってる猛者だったのだ。
普通に演技指導だけかと思いきや、柔軟やら筋トレやらランニングやら発声やら、基礎トレは一緒にやらされる。(引退はしたけど、来年高等部でまた演劇部入るから稽古続けてるんだって)
それはいいのだ。そ・れ・は。若との稽古のがキツイくらいだし。
問題はダメ出しが半端無いってことだ。
OK出るまで延々同じセリフを言わされる。
しかも、表情は勿論、動作や仕草、立ち方なんかのディテールにまで拘るのである。
さすが王者と言うべきか。
大根気味な演技力しかなかった私だけど、終わる頃には女優並になれそうだ。
くたくたになってる私を放置し、彼女達はこれから楽しみにしている舞台があるのだとはしゃぎながら帰っていった。
……なんか寂しい。
妙に疲れきった体を引き摺り、私は一人、帰宅の道を辿った。
****
自宅の最寄り駅に着くと、自身の着ているセーラーよりも、圧倒的にブレザーの子が増える。
……家から近いし、私も氷帝にしとけば良かったかも。
若と同じ制服を映しながらボーッと考えていると、駅前の人混みの向こうにチラリと不愉快な光景が見えた。気になって近づいてみれば、案の定。
「なぁ、ちょっと付き合ってくれって言ってるだけじゃ〜ん」
「そうそう。優しくするからさ〜」
近づいた先には、害虫……としか言いようの無い柄の悪い男二人が、か弱い女の子にちょっかいを出している光景。女の子は制服を見るに、氷帝の子みたいだ。
「は、離して下さい!!」
あ〜ぁ、声震えてるし。何で誰も助けないのよ……。
私は仕方なく、女の子を助けに向かった。
だって、か弱い女の子見捨てるわけにはいかんでしょ〜。
害虫はきっちり駆除しとかなきゃね。
「離しなさい。彼女嫌がってるでしょ?」
言いながら、女の子の手を掴む男の手を払うと、女の子が驚いた表情で私を見た。
ごめんよ、助けに来たのがヒーローではなくて……って、この子可愛い!
こりゃあ役得だね!
「ブスはすっこんでろよ!」
「そうそう。俺たちが用があんのは、そっちの可愛い子だけだから早くそこ退けっての!」
うん。駆除ってか、抹殺して欲しいのかな? この馬鹿どもは……。
この子と比べたらそりゃあ……だろうけど、本当のことでも言われりゃ傷つくんだぞ!
まぁ、こんな奴らに何言われたって良いけどさ、良・い・け・ど・さ!!
…………嘘。良くない。
「あんたらの用なんて私は知らない。この子は嫌がってんだから退きなさいって言ってんの!」
とにかく今は自分の心の傷より、この子を助けるのが優先だ。
女の子をきっちり自分の後ろに隠して、馬鹿な害虫を睨みつける。
「ったく、退けって言ってんだろ!」
言うなり殴り掛かって来る馬鹿その1。
女に手を上げるなんて男の底辺だな。いやまぁ、分かってたけど。
「きゃ……っ」
あ、今の私の悲鳴じゃないから。てかこんな可愛い声出せないしね〜。
そう、後ろに居た女の子が小さく悲鳴を上げたのだ。
怖い思いさせる気はなかったんだけど……。
本当にこの害虫共腹立つなぁ。
馬鹿その1の遅い拳を片手で往なして、鳩尾に一発蹴りを入れる。
ん? ちゃーんと手加減はしてるから大丈夫。
過剰防衛で退学なんて洒落になんないしね?
しかし、男は受身すら取れなかったのか、吹っ飛んで気絶した。
「弱……」
呆気ないにも程ってもんがあるでしょ……。
馬鹿その2も、自棄なのか何なのか殴りかかってきたけど、顔面を一蹴すると鼻血を垂らしたまま気を失った。
「……え? 弱すぎない?」
誰にともなく呟くと、後ろからセーラーの襟をクイッと引かれた。
当然後ろに居るのは、私が助けた女の子なわけで……。
「あ、大丈夫だった?」
振り返って驚愕。
う〜わ〜涙目だぁ〜!!
「怖かった? ごめんね?」
目の前の女の子の頭を撫でながら、どうしたもんかと悩む。
やっぱ、お嬢の前で暴力はまずかったかもしれない。
え〜と、ワタシハドウシタラ?
「あ、あの。助けて下さって有難うございました。ホッとしたら……その……」
言いながら泣き出してしまったが、私が怖いわけではないらしいので、女の子が落ち着くまで傍に居ることにした。
か弱い女の子は助ける。これ常識だよね?