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婚約者からお願いします?

第6話 家に帰ると鬼が居ました

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女の子を無事自宅まで送り届け、私は漸く肩の荷が降りた気がして、ホッと一息吐いた。

うん、本当に良く頑張ったよ私! すーごい頑張った。

そこまで言う程かって? 私だってちょっとやそっとじゃここまで自分を褒めやしない。
……多分。
でもね、彼女の家は私の家からは遠かったんだ。駅すら違ってて、何て言うか神奈川県寄りの駅……いや寧ろ、神奈川県だった。

氷帝最寄り駅〜青学最寄り駅とは逆方面で、電車で30分(急行に乗れば)。駅から徒歩20分(徒歩と言うか、私が本気で走れば)。

正直、電車に乗ってる間中どこまで行くんだろうと気が気じゃなかった。
ほら、しがない一般中学生の私じゃ、往復の交通費が足りるかどうかでハラハラだったわけですよ。
危うく助けたはずなのに、お金借りるとかいう残念な結果になるとこだったし。

安請け合いはいけね〜なぁ〜! いけね〜よ!

おっと。つい顔見知りの言葉が。

そんなこんなで数時間ぶりに戻ってきた『氷帝学園前』駅の改札を抜け、私はぼちぼち我が家へ向かって歩き出した。

現在、時刻は……何時だっけ? 腕時計を確認すると既に8時を回っている。
帰宅部に所属している中学生の帰宅時間にしちゃ随分遅い。
けど、昨日からおじいちゃんは老人会の慰安旅行に行ってるし、両親はともに不健在。あ、不健在って言葉は造語。私の両親はとっくの昔に他界してるんだ。

てなわけで、今日は遅くなっても誰にも心配をかける心配……あってるよね? そういうのは無いって思ってた。


うん、思ってた。


私の家の前で仁王像のごとく立つ若の姿を見るまでは。


「は、ハロ〜若」


努めて笑顔で声をかけるも、健闘むなしく睨まれた。そう、睨まれた。単なる不機嫌な表情ならともかく、こんなにハッキリ睨まれれば私だって怖い。


「遅い」

「ご、ごめん?」


つい語尾に疑問符を付けたら、余計に視線がきつくなった。いや、だから怖いって!


「何度電話したと思ってる! だいたい暗くなったら一人で帰るなって言っただろうが!」

「……ごめんなさい」


女の子を……とか、携帯を忘れた……とか、色々言い訳は頭を巡ったけど、結局口を吐いて出たのは「ごめん」の一言。

だって、若が本気で私のこと心配してくれてたは明白で、それ以外に何も言えなかった。若は厳しいけど、誰よりも優しい。

心配をかけて申し訳なく思う反面、心配してくれたのが凄く嬉して、私は勢いに任せて若に抱きついた。若は溜息を吐きながらも、何も言わずに抱きしめてくれて、本当にどっちが年上かわかんない。


「ったく、あまり心配かけるな」

「ん。……若今日泊まってくでしょ?」


本当はおじいちゃん居なくて寂しかったりして。私の家は日本家屋で、ボロいくせに無意味に広く、一人ではちょっと持て余すのだ。


「……あぁ」


それをわかってるから、若が私の要請を拒否することは、まず無い。
ほーんと、若って優しいよね? 若の腕の中で笑ったら、ムッとしたのか背に回った腕に力を込められた。

地味に……いや、派手に? とにかく痛いです。ってか本気すぎでしょ!


「若、ギブギブ! とにかく家ん中入ろ? ね?」


さすがにこれ以上外でジャレることには抵抗を感じたのか、提案するとあっさり解放された。

へへへ、愛されてるな〜。
なんてニヤニヤしてたら私の家なのに、先に入った若に締め出された。

あれ? さっきまで心配してくれてたよね?




幼馴染の愛に疑問を持った今日この頃。



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