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――カコンッ
竹筒が岩に当たり跳ね返る独特な音が、静まり返った空間に一際大きく響く。
見合いの場として跡部家から指定されたのは、超が幾つも付くような高級料亭。
ご丁寧に、迎えの車まで寄越してくれた。
うん、少しも嬉しくないけどね?
私は一張羅の着物を着込んで、連れられるままに此処までやって来たのだ。一人で。
驚くことに、おじいちゃんは直前になって、ぎっくり腰。
そりゃあね、おじいちゃんの前で演技するのは気が退けたから、その点は良いんだけど。
ろくろく動けないおじいちゃんを残して、こんなとこに来なくちゃ行けないってのは、何だか釈然としない。
ま、若にお願いしたから、きっと大丈夫だろう。……きっと。
で、だ。
何と、現在私とパッチン部長は二人で、だだっ広い卓を挟んで向かい合っている。もう一回言います。二人で。
そうです。跡部さん家のご両親も、急な仕事の都合とかで、来られなくなったらしい。こうなると、最早誰得な状況。明らかにパッチン部長は、自ら望んだ状況ではないだろうし、私だってそうだ。
目の前に広がる高級会席と、い・ち・お・う、超が付く美形。目の保養としては、申し分ないんだけどね……。
「跡部景吾です」
「あ。、……です」
というわけで、演技開始です。
コンセプトは
ミーハーでオドオド
チラッとパッチン部長の顔を見て、頬を染め、俯く。演技で顔染めるとかどんなだ、と以前の私なら思っていただろう。
しかし私は生まれ変わった!
……何だか寒いね、うん。
「どうかされましたか?」
少し視線を上げて、パッチン部長の顔を見ると、綺麗な笑顔を浮かべて此方を見ていた。
貼り付けたような笑み、とでも言えばわかるだろうか? 綺麗だけど、感情なんて一切入ってないような、イミテーション染みた笑み。
「……い、いえ」
目が笑ってないだけに、これが結構怖い。
顔が引き攣りそうになって、誤魔化すべく再度俯いた。
あ〜あ、早く帰りたい……。