L /
M /
S
文字サイズ変更
カツン――……コツン――……
カツン――……コツン――……
コンクリート剥き出しの廃墟に、二人分の足音が交互に木霊する。偶に現れる瓦礫を飛び越える時僅かにリズムが狂うものの、それ以外は一定のリズムを刻みながら、途切れることなく続いている。
様子を窺う為、チラリと後ろに視線をやると、は音と違わずワタシの後ろを大人しくついて来ていた。
文句を言うでもなく、逃げ出そうとするわけでもなく、ただ黙って。
廃墟故に窓など全開状態だと言うのに、まるでそこから逃げることなど、思いつきもしないとでも言うように。
空を仰ぐようにして、何か思案している風にも見えたが、やはり良くわからなかった。
団長が待っているのは、ブラックスタールビーについて話した、あの元集会場らしき広間。同じ階なので、到着には大した時間はかからなかった。
広間の入り口に辿り着くと、ワタシは無言でを部屋に導いた。
入り口の役目を果たしていた筈の扉は外れており、部屋の中にそれだったと思わしき長方形の木が転がっている。その木片を過ぎたところでワタシが足を止めると、後に続いていた足音もピタリと止んだ。
「やっと来たか。お前には幾つか訊きたいことがある。まずはそうだな……お前の名前は?」
そう切り出した団長は、部屋の入口から程近い、一際大きな瓦礫に座している。
ワタシは有事に備えて、団長との間に身を置く。
他の奴らは適当にその辺に立ったり座ったり。興味なさ気なマチ、警戒心剥き出しのノブナガ、シャルの目は好奇心に輝いている。
「。=。貴方は?」
「訊かれた事だけこたえるね」
何が念の発動条件かわからないし、些細な言動が気になて仕方ないね。
睨みつけるようにの顔を見れば、団長が上から声を落とした。
「そう殺気立つ必要はないだろう。 か、俺はクロロだ。 は何故あそこに居た?」
しかし、いかに団長にそう言われても、そう簡単に警戒を解く気にはなれない。言われた通りに殺気を少しだけ抑えて、の様子を観察する。
すると、無表情なはずなのに、の瞳が輝いているような気がしてワタシは首を傾げた。
睨まれての反応……か?
……だとしたら只の変態ね。
他に理由が? そう思い巡らせると、ワタシの部屋でが言った言葉を思い出した。
『名前。お前ってのは止めて欲しいかなぁ……と』
つまり団長が名前を呼んだからか?
“気に入らない"
そんな言葉が不意に脳裏に浮かんだ気がしたが、ワタシはすぐにその考えを消し去った。
きと気のせいに違いないね。そんな言葉と共に。
「あそこって、あの……建物の中ってことですか?」
団長の言葉を受けて、暫く考えるように黙り込んだは、答えではなく確認の言葉を紡いだ。
「そうだ」
団長が訝しむでもなく即答すると、再び何やら思案し始める。誤魔化そうとでも考えているのだろうと思っていた次の瞬間、は真っ直ぐに団長を見据えて口を開いた。
「クロロさん、信じろ……とは言わないけど、取りあえず最後まで聞いてくれます?」
本気の団長と無言で視線を交わし、堂々と立つ姿には威厳すら感じる。
そんなの姿に感心したのか、団長はあっさりと彼女の発言を容認した。
「……いいだろう。話せ」
視線も幾らか柔らかくなり、団長がを認めたことは容易に知れた。
それを面白くないと感じたのは、あっさりと蜘蛛の中に入ってきてしまいそうなに脅威を抱いたからか、それとも……。
いや、それはないね。
先程同様、ワタシは浮かんできた考えを払った。
まるでワタシがに惹かれているみたいな考えを。
馬鹿みたいな考えを捨てると、改めて目の前の脅威に対して警戒を強めた。
良く見れば、蜘蛛に侵食してきそうな存在に警戒を露わにしたのは、どうやらワタシだけではなかたみたいね。
視界の端に、刀に手をかけたノブナガの姿が目に入った。
黙しての言葉を待って数十秒。から出たのは予想外の言葉。
「私も……私も良く分からないんです」
がそう言うと、ノブナガにとっても予想外だったのだろう。
「なっ!」
地べたで胡坐をかいていたノブナガは、腰を浮かせて短く声を上げた。
「ノブナガ、静かにしていろ」
「……すまねぇ」
その反応を団長が軽く諌めると、ノブナガは罰が悪そうな顔で押し黙る。
……ノブナガはバカね。
その間にも団長との会話は、着々と会話は進んで行く。
「クロロさん、貴方は神の存在を信じますか?」
かみ? 神か?
「いや」
「そうですか。私も信じてなかった。……この世界に連れて来られるまでは。実を言うと私はこの世界の人間じゃないんです」
何ていたか?
この世界の人間じゃない?
何を馬鹿なことを……。
ガキィーン!!
ワタシの思考を遮ったのは、ノブナガの太刀が止められた音。
「……すみませんが、話が終わるまで邪魔はしないで下さい」
が例の本で、己に向けられた刀を受けとめていたのだ。
「お前何者だ!?」
ノブナガ……さきから煩いよ。
そう内心で呟いた時、不意に抱いた違和感の正体に、この時のワタシは気づかなかった。