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「むぅ……、眩しぃ」
私は半端ない眩しさで、とてもじゃないけど寝ていられなくて目が覚めた。せっかく太陽の光で目覚めたというのに、心地よさは欠片も無い。カーテンの奴め、何サボってんのさ。
「……ん? あ、そっか。ここ私の部屋じゃないじゃん」
というか部屋ですらないんだけど。
ぼんやりとした視界には、コンクリート片が疎らに散らばる妙に拓けた空間。遮るものの無い屋上で寝てれば、そりゃあ直射日光浴びますともね。ごめんよカーテン……君に罪はなかったらしい。
いやしかし、これか『グルルルルルルルルル』
「そういや、昨日から何も食べてないんだっけ。てか誰も居ないよね?」
空腹に鳴ったお腹の音は『キュル』とかっていう可愛い音じゃなくて、『飯まだかよ』と怒っている獣の声のようで、ちょっと女の子としては複雑な気分だ。せめて誰にも聞かれていないことを祈りつつ、食料確保のために彼らに接触する覚悟を決めた。
……背を向けちゃいかんらしいし。
と、もっともぶって言ってみても何だか格好つかないのは、やはりさっきの唸り声もどきのせいだろうか?
すっくと立ち上がり、次の瞬間私は首を傾げた。いや、理由は簡単で、何か音がしたんだよ。こう『パサッ』って。朝っぱらから擬音が多いな、なんて良く分らない感想を抱きながら振り返ると、そこには黒い……布? そう、布があった。
「なんだろう?」
あれか? 誰かが掛けてくれた的な? そういえば外で寝た割には寒くなかったし、きっとそうなんだろう。意識が落ちる直前に感じた人の気配を思い出して、妙に納得した。
しかし。が、しかしだ。
「これ、血?」
私の見間違いでなければ、布には所々に黒が一層濃くなったようなシミが。触るとカピカピで、凝固してるのがわかる。さすがに醤油でこうはならないだろうし。ここ、旅団の仮宿だし……。
ひっじょーに怖い上に、とてつもなく寝目覚めが悪い。
だってさ、『血のついた布=誰か殺された』ってことでしょ!?
一体どんな嫌がら……せ……。そうか。
そこまで考えて、私はようやく理解した。
このままじゃ確実に殺られる、と。
恐らく。恐らくだが、これは罠だ。罠というより、テメェ礼のひとつも無しか! と私を仕留める好機を作り出そうとしているのではないか?
今はクロロが静止してても「アイツこちと宜しくやる気ないね」とか「あの子礼儀とか知らないみたいだし、一回絞めとかない? それともアンテナ刺しとく?」とか「早めに殺るべきじゃないか? ま、勘だけど」とか「俺に殺らせてくれよ!」なんて進言されれば、今後どう転ぶかわからない!
――って、後半礼儀とか関係ないな。
とにかく。物事は全て最悪の事態を想定して動くべきなのであるからして、今私が成すべきは『グルルルルルルルルル』……うん。まずは腹ごしらえだ。
腹が減っては何とやらと言うし、ね。
私は唸り声を上げる腹部をひと撫でして、太陽の熱を吸って温くなった布と例の本を掴み上げると、のそのそと屋上を後にした。