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廃墟ビルをウロウロすること多分三十分くらい。未だ私は旅団の誰とも顔を合わせていない。
普段ならば、それこそ諸手を上げて喜ぶだろう状況なのだが、いかんせん空腹が限界点に達しかけている現在、それはとても歓迎できる事態ではなかった。
『グルルルルゥ……』
ほらね、私のお腹に住む猛獣もどきも元気がなくなってきた。さて、どーしたものか。
動かず待つ……のは遭難した時だよね、死んだフリ……は熊遭遇時。あ、でも本当に熊に襲われそうになったら死んだフリは意味ないんだっけ? 確か目を見たままソロリと後退、って聞いたような……まぁ、熊とか遭遇する予定はサラサラないが。
ん? しまった、何かナチュラルに脱線しちゃったよ。
とりあえず偶然の遭遇は諦めて、お部屋訪問しちゃいますか。でないといつまで経ったって――って、このタイミングで第一村人発見!? じゃなかった、団員発見!?
「あれ? こんなとこで何してるの?」
そう聞いてきたのは、金髪、童顔、無駄にマッチョな青年。このキーワードが全て当てはまるのは彼一人。
「あ、えっと……シャルナーク。いや、その、実は『グルルルゥ……』……聞いての通り、空腹なので食べ物ください」
「……プッ、アハハハハハハハハハ!」
一瞬の間を置いて響きわたる盛大な笑い声に、羞恥で顔が熱くなる。
正常な反応。そうだシャルの反応は正常だ。正常なんだけど、ちょっとは遠慮して欲しい。仮にも私女の子だし、さ。
「シャル……」
さっきよりも声のトーンを落として諫めようとしたら、私が全て言う前にシャルはあっさりと口を閉ざした。
少々顔色が悪い気がするけど、この数十秒の間に一体何が? もしかして体調でも悪いのだろうか?
「シャルナーク、大丈夫?」
私が顔を覗き込むように近づくと、咄嗟の反応なのか、わざとなのか、驚くほど俊敏な動きで距離を置かれた。
そりゃあ、昨日いきなり現れた人間(正確にはそちらの団長さんに連れてこられたわけだけど)を警戒するのはわかるけど、それは過剰反応ってもんじゃないかい?
「あ……っと、ごめん。何でもないよ。それより食べ物、だっけ? 俺インスタントしか持ってないけど、それでいい?」
明らか誤魔化されたよね? まぁ、いいけど。
私はシャルナークの問いに頷き、食べ物に集中することにした。というか、ぶっちゃけちゃうと、お腹空いてて他の事に思考が回らないのだ。「付いて来て」というシャルナークの言葉に従い小鴨の如く、ただ彼の後を追う。
……小鴨とか可愛く言い過ぎか。
シャルナークは階段をトントンと登り、三階まで辿り着くと、ようやく階段から離れて廊下を歩み始めた。一階同様、ここも窓ガラスは殆ど大破かヒビ入り。コンクリートも所々崩れてるし、もしこの場を裸足で歩こうもんなら確実に怪我をする自信がある。
「ここだよ」
そう言ってシャルナークが足を止めたのは廊下の一番端。つまり角部屋だ。一応扉は機能しているようだが、鍵は付いていないのか、そのまま開いて中に入ってしまった。
私は入っていいものか躊躇って扉の前で立ち往生。どうしようか迷ってる私に気づいてか否か、中から「入りなよ」と軽い声が聞こえたので、遠慮なく入らせてもらった。
「おじゃましま〜す」
うわぁ……。思わずそんな声が漏れそうになって、口を噤む。
何ていうか、とりあえず一言。『ここ、仮宿だよね?』と問いたい。
無論私はみんなの正体を知ってるなんて言ってないから、当然そんな質問は投げられないけど、それも仕方ない。だって、コンピュータが幾つも置いてあって、配線がゴチャゴチャと波打って、何だか異質な空間だったのだ。
ちなみにベッドはない。一体何処で寝てるのだろう? 本当に不思議だ。
「えーっと、あ、これこれ。お湯を入れるだけで食べられるヌードル!」
それって要はカップ麺なんじゃ、とは突っ込みそうになるのをグッと堪える。だって、気分を害して食べ物くれなくなったら大事だもん!
まとめて十個渡され、正直持てねーよ! と思ったが賢明にも私は口を噤んだ。理由は、さっきと同じ。
「とりあえず一個此処で食べてく? お湯探すの面倒だろうし、何よりのお腹も『グルゥ……』限界みたいだしね」
ある意味空気を読んだのか!? 何故見計らったかのようなタイミングでなるかなぁ……。凹むよ。しかし、何はともあれシャルナークの申し出は願っても無いことだ。これ以上は無理。本当に無理。
「じゃ、じゃあ遠慮なく」
私は意を決して、シャルナークの厚意に甘えることにした。貰ったうちの一つを差し出すと、シャルナークはまだあるからと新しいカップ麺……いや、お湯を入れるだけで食べられるヌードルを取り出して用意を始めた。